虫歯菌を攻略せよ!その3

こんにちは、とみざわ駅前歯科、歯科医師の大島です。
今回は、前回の続きのお話になります。

虫歯の免疫学的予防法として、ミュータンスレンサ球菌の歯の表面への付着を抑制するワクチンの開発が行われています。
動物を用いた初期の実験では、ミュータンスレンサ球菌の菌体そのものを抗原(ワクチン)として用いるものがありました。
インフルエンザワクチンも、インフルエンザウイルスの病原性を弱めたものを用いますが、それと同じ発想になりますね。
ただ、ミュータンスレンサ球菌などの口腔レンサ球菌はヒトの組織(心臓、腎臓)と共通抗原をもつため、菌体そのもので免疫を行った場合に、重篤な副作用を引き起こす危険性がありました。
そのため、現在は菌体そのものを用いず、人工的に合成されたものをワクチンとして用いたり、腸管パイエル版を介した内服ワクチン、唾液腺へのワクチンの噴霧などによる安全な方法が用いられています。
また、動物や植物を利用して作成された抗体を歯面へ塗布したり、歯磨剤へ混入するなどの受動免疫による予防法も検討され、一部は実用されつつあります。
虫歯菌にもワクチンがあるなんて、面白い話ですよね。

次に、感染症としての虫歯の予防についてです。
歯の表面など、高組織を住み家とするミュータンスレンサ球菌群は歯が生えてから、おもに母親から子供に感染し、歯面上のフローラの一員になります。
1981年から1984年にかけて母親から子供へのミュータンスレンサ球菌の伝播の可能性を調べた一連の研究では、母親の唾液中のミュータンスレンサ球菌の数が10⁵CFU/ml以上の時に子供への感染が起こりやすいことや、母親の口腔環境を改善させることで子供のう蝕率が低下することが確認されています。
CFU/g(ml) とは、Colony Forming Unit(コロニーフォーミングユニット) の略称で菌量の単位です。 (コロニーを 形成する能力のある単位数)100CFU/g または 100CFU/ml とは1g または1ml中に菌が100 個存在することを表しています。
詳しいデータとしては1ml中に10万個以上のミュータンスレンサ球菌がいると子供のミュータンスレンサ球菌の感染率が58%に及び、逆に100個以下まで改善できれば6.5%まで感染率を下げることができます。
すなわち、母親の歯垢にミュータンスレンサ球菌が多ければその子供の歯垢中にもミュータンスレンサ球菌が多くなり、さらに食習慣として砂糖の摂取量が多ければ虫歯になりやすくなります。

子供の頃にお母さんの口の中が清潔であることで虫歯菌が少ない口の環境が作れているか、そのうえで1日で砂糖の摂取量が少ない、唾液の分泌量が減らないようストレス対策を行うことで、虫歯のリスクを最小限にすることができます。
予防のため歯医者に通う場合は年に3回の定期検診で済みますが、虫歯を作った場合は、その治療で何回も歯科医院に通わなくてはいけなくなり、治療費以上に、時間的な機会損失は図りしれません。なにより、歯を失うと食事もおいしく食べれなくなってしまいますので、習慣的な予防は日常的に行っていきたいですね。