歯肉炎と歯周炎を科学的に解説してみた。その②

 

こんにちは、とみざわ駅前歯科、大島です。

前回は歯肉炎の原因が細菌性プラークにあることについて、科学的根拠を元に説明してまいりました。

今回は、歯周炎の原因にプラーク以外のいろんな要因が考えられることを、論文を見ながら解説していきたいと思います。

では、始めていきましょう。

 

まず、スリランカ人を対象にした、有名な研究があります。

1986年に行われた研究で、スリランカの茶畑で働く男性480人(14-30歳)を対象にしたものになります。

1971年から1985年の15年の間に、被検者を対象に7回の検査を行い、アタッチメントロス、歯肉炎指数、プラーク指数、歯の喪失数などを評価していきました。

アタッチメントロスとは、歯の頭と根っこの境目の部分から、歯茎の溝の一番下の部分までの距離を測った値になります。歯周炎は歯を支える骨を溶かしながら進行します。骨が溶けるとそれに合わせて歯茎も下がってきたり、歯茎の溝が深くなったりするので、歯周炎の進行度を測る指標になるのが、アタッチメントロスなんですね。

歯肉炎指数、プラーク指数は前回の記事で解説しているので、そちらを参照してくださいませ。

この実験でスリランカ人を対象にしているのは、当時のスリランカには歯科医院が全く無く、歯ブラシも無い、つまり口腔清掃を全くしない人を対象にしたかったからになります。

我々からしたらびっくりの状況ですが、研究対象としてうってつけだったわけですね。

 

研究結果としては、被検者は15歳の時点で平均プラーク指数2.04を記録し、この傾向は観察期間を通じて維持されました。

被験者は30歳で90%の歯間部で、40歳で全ての歯間部で歯肉炎指数2.0を認めました。

う蝕は非常に稀で、すべてのグループでほとんどありませんでした。したがって歯の喪失は、歯周炎に起因するものになります。

歯ブラシしないで虫歯が無いってちょっと待てよって感じですが、スリランカは発展途上国で、虫歯の原因となるスクロースの摂取量が非常に低いので、虫歯にほとんどなりません。

我々も見習いたいものですね。

 

肝心のアタッチメントロスの進行速度については、3つのグループに分類されました。

・非進行群(11%) 1.21mm 歯の喪失なし

・中等度進行群 (81%)3.22mm 40歳までに3-4本の喪失。

・急速進行群 (8%)5.21mm 40代で無歯顎

 

全く歯ブラシしていなくても、歯周炎の進行度は人によって差があったという結果を得ることができました。

 

結論としては、

・歯周病予防、歯周病治療が行われなかった場合、歯周炎によるアタッチメントロス、歯の喪失が起こる

・全ての被験者で中等度のプラーク指数、歯肉炎指数を認めたにも関わらず、被験者によってアタッチメントロスの進行度に大きな違いがあった。

・歯周炎の重症度は宿主抵抗性によって大きく左右された。

 

つまり、歯周炎の主病因は感受性の高い宿主におけるプラークにあり、プラークがあるからといって、必ず歯周炎になるとは限らない。細菌性プラークに対して宿主がどのように反応するかによって歯肉炎が歯周炎へ進展するか、歯周炎がどの程度重症化するかが決まるということになります。

 

この研究結果から、人によって歯周病になりやすい人、なりにくい人が存在することがわかりました。

この研究のポイントは、口腔清掃をしていないという前提があるので、歯周炎の発症に宿主抵抗性が関わっていることがわかる点にあります。

次回は、逆に我々歯科医師が歯周治療に関与した場合、どのくらい歯周病の進行を食い止めることができるかということを、今回紹介した論文と比較して解説していきたいと思います。

次回に続きます。